| 北京政府は本年5月、今後力を入れる9つの先端技術分野として、バイオ・情報通信とともに磁石技術を上げ、集中的投資・支援を行うと発表した。
●磁石産業界の構造
中国には1994年まで、民間資本による企業は存在してはいなかった。国営の公司ではない集団企業・郷鎮企業という組織があるが、これは純粋な民間資本ではなく地方政府の管理・影響を受けている企業である。一般にこの国は共産党の一党支配による中央集権的であると思われているが、実体は日本より遙かに地方への権限委譲が進んでおり、同じ業種の国営企業が、同規模で同じ研究開発を地方独自に同時進行で行っていることがある。
磁石産業も同様で、政府発表がされるまでもなく、産業の育成はこれまでも各地方が競って設立・支援してきた経緯がある。さらに昨年来の磁石製造企業の株式上場も相まって磁石産業が成長産業として注目されており、新規参入は今でもなお続いている。このような状況は磁石産業に限ったことではなく、かつては白物家電においても一時は200社以上に上った。そのため数年前には、企業乱立による過当競争によって、経営破綻や企業淘汰が起きた。このことによる企業の再編・淘汰は現在も進行中である。
地方政府指導による事業参入のために、磁石産業が高度な技術・設備が必要であるにも拘わらず、研究開発でさえも集約された形態とはなっていない。磁石産業への参入は、従来からある金属研究所への資金支援によるものや資金力のある国営・郷鎮企業の新規参入などがある。北京政府の重点政策に沿った事業には、地方政府の支援と金融機関の積極的融資が受けられるため参入が容易な環境となっている。
●磁石業界の現状
私が始めて中国の磁石業界を見て廻ったのは1992年で、そのころのネオジ磁石の工場はまだプレス機1,2台で生産している研究室レベル程度でしかなかった。現在、年間500トン以上の生産量を上げ、株式の上場を果たした企業でさえも当時は同様な状況であった。半年経つと都市が変わると言われる上海の街の変貌と同じように、日本が20年以上の時間で築き上げたことを、中国ではわずか5,6年で成し遂げているように見受けられる。
磁石産業は各地方独自の事業支援によってバブルの様相を呈し、すでに企業乱立による設備過剰・供給過剰となっている。ネオジ焼結・ネオジボンド磁石においては、中国の関係企業が保有する設備の生産能力を総計すると、全世界の使用量にも匹敵する規模である。
実際のネオジ燒結磁石の生産量・稼働率は素材ベースで50%、製品出荷ベースでは30〜25%程度で、ネオジボンド磁石では継続的に製品生産を行っているのは数社にすぎない。
400社とも500社とも言われる磁石産業の現状は、遅からず供給過剰による混乱が起きることは明らかである。現状のような乱立ともいえる新規参入は、技術レベルの低い磁石が市場に流れ、結果として中国製磁石全体の信用をなくす事態が生まれるのではないかと危惧される。このような状況は、世界の磁石業界にとっても非常に憂うべき問題である。
これまでの中国磁石産業は素材製造が主流で、磁石応用品の開発は殆ど行われてはいなかった。しかし将来の供給過剰・過当競争を回避すべく、国家的指導のもと現在の磁石製造企業が磁石の応用開発に方向転換をしたら、日本の電子機器製造企業にとっては強力なライバルが出現することとなる。現にこの流れは起きつつあり、ある日系メーカーの話によれば、「競合の相手は日系・台湾系メーカーではなく、中国のローカル企業」と伺った。
中国では何事においても、決定までには時間を要することがあるが、一度方向が定まると信じ難いスピードで結果を出すことはめずらしいことではない。
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